外来がん治療認定薬剤師 のお仕事
日ごろの主な業務について
昭和大学病院の近隣に位置する、かもめ薬局旗の台店で、2009年から約5年間、管理薬剤師として調剤業務に携わり、がん患者さんにも多く関わりました。
2014年以降は、本部でのマネジメント業務や、他店舗での調剤業務、スタッフ指導も担当。最近では、各店舗で症例検討会を積極的に実施するようにしています。
患者さんに今、何が必要か、薬剤師として何ができるか、スタッフと日々ディスカッションしています。
研修を受けたきっかけは?
以前から、がん領域に興味がありましたが、自分で勉強するには限界があると感じていました。
特に、がん領域では、患者さんが医療機関で受けている治療の内容を理解した上でフォローすることが大切だと思いますが、私は大学卒業後、薬局薬剤師として勤務してきたため、病院での治療について教科書で得た知識や患者さんの話しか知り得ませんでした。病院で医師や薬剤師がどのように考え、治療を行っているのか、また患者さんにどう説明したり、患者さんからの相談に乗ったりしているのかなど、知りたいことが多くありました。
最近は、改正薬機法による薬局認定制度や調剤報酬でも、医療機関との連携の重要性が言われています。十分な連携を取ることで、患者さんによい医療が提供できるはずです。病院の中のことを知ることで、より深い連携につながると思います。
薬局認定制度ができ、薬局薬剤師でも専門性を持つことの重要性を感じたのも1つのきっかけです。ジェネラルな知識を持ちつつ、がんの分野の高い専門性を持つ薬剤師を目指したいと思って、本研修を受けることにしました。
日本臨床腫瘍薬学会がん診療病院連携研修について
昭和大学病院で30日間の研修を受けました。新型コロナウイルス感染症の影響で制限はありましたが、外来化学療法室と病棟での研修があり、食道がんを中心に膵がん、血液がんの患者さんを担当しました。
研修の方針は、病院によって様々だと思いますが、昭和大学病院の場合は、座学の時間を極力減らし、「患者さんに介入する時間を多く設ける」という方針で、1人でも多くの患者さんに継続的に関われるように、例えば後半の病棟研修の期間でも、前半に外来で担当した患者さんの予約時間に合わせて外来化学療法室に行けるようにするなど、配慮してくださいました。
一方で、各疾患や薬剤に関する知識は、自分で調べる必要がありました。例えば、現疾患でステロイドを服用している患者さんが、ステロイドが入ったレジメンで治療を受ける場合はどうするかといった臨床上の疑問などは、指導薬剤師のアドバイスの下、院内のDI室を使わせてもらい、自ら調べる方法を学ぶことができました。
研修で感じたこと
病院では、それぞれの職種の役割分担が明確に決まっていますが、各職種が得た情報を全員に共有し、様々な意見を出し合って方針を決めていくチーム医療のしくみができ上っており、その様子を垣間見ることができました。
職種を越えて情報共有する方法や、他職種の専門性を尊重しながら、自分の専門分野の意見を述べることなど、非常に勉強になりました。
研修修了後の薬局業務の変化
研修前は、患者さんが病院で点滴治療を受けていると分かっていても、その治療に対するイメージがあまりできませんでした。例えば、大腸癌のFOLFOX療法で46時間の持続点滴を行う場合など、患者さんはインフューザーポンプを使って点滴をしながら自宅に戻り、薬剤がなくなり次第、自分で点滴を抜く必要があります。
インフューザーポンプは、点滴の注入速度が気温に左右されるため、正確な時間を示すことができないといったことなど、これまでは知識としては知っていましたが、患者さんの点滴終了時間を意識したことはありませんでした。
研修後は、初めて治療を受ける患者さんに対して、点滴終了予定時刻の2時間後に電話をして、問題なく治療が終えられたかを確認するようにしています。
先日、ある患者さんに終了予定時刻の2時間後に電話したところ、まだ終了しておらず、さらに2時間後に再度電話したところ、ほとんど薬剤が減っていないとの回答をもらい、病院を受診するようアドバイスしました。
トラブル時の対応については、病院スタッフが十分に説明していますが、特に初めての患者さんでは不安が強いと思います。薬局薬剤師が注射剤の治療についても把握し、フォローアップできれば、患者さんの安心感や安全につながると感じた一件でした。
研修を受けるにあたっての会社の対応は?
―前例のない研修・研鑽奨励金制度の設立―
研修のために1カ月間、仕事を休む必要があり、その許可が下りるのか不安だったのですが、上司に相談したところ、「むしろ、受けてほしい」という言葉をもらいました。1カ月間、現場を離れることで同僚には、迷惑をかけましたが、皆、快く協力してくれました。
研修期間中、病院での業務が終わった後に薬局に戻って仕事をすることがあり、その際にその日の研修の様子を話すと、「病院の話が聞けて楽しい」と言ってくれたり、「自分も研修を受けてみたい」と言ってくれる薬剤師もいました。
今回のことがきっかけで、当社では学位や認定・専門薬剤師の取得を目指す人のための支援制度ができました。後に続く薬剤師のためにも、薬剤師の学術的な活動に対して、組織的なバックアップ制度ができたことはとても良かったと思います。
認定を取ることは考えていますか?
当初は、がん患者さんが病院で受けている治療を学ぶことが目的であり、認定を取得することには必ずしもこだわっていませんでした。しかし、JASPOの会員となって、病院研修を受ける中で、同じ想いで仕事をしている方々と知り合えて刺激をもらい、学び続けるためにも外来がん治療専門薬剤師の認定取得を目指したいと思うようになりました。
専門医療機関連薬局制度ができて、外来がん治療専門薬剤師など、専門薬剤師の認定を持つ薬剤師がいることが要件となったことも、認定取得を目指すようになった理由の一つといえます。薬局薬剤師も今後、専門性を持つことが大切になってくると思います。社内的にもその先駆けになりたいと考えています。
認定取得後のビジョンについて
大学病院などがん連携拠点病院の近隣の薬局では、がん患者さんが来局することは珍しくありません。しかし、それ以外の薬局ではがん患者さんの処方箋を応需することが少なく、対応に苦手意識を持つ薬剤師は少なくないと思います。
しかし、どこの薬局であっても、近隣にお住まいだったり、自薬局をかかりつけにしてくださっている患者さんに対して、基本的なフォローアップができるようになっておく必要があると思います。
外来がん治療専門薬剤師を取得することで、地域の全ての薬局ががん治療支援を行えるように研修を行ったり、さらに専門薬剤師が地域の薬局をサポートしながらさらに専門的な薬学管理を患者さんに提供できるような仕組みづくりができればいいと考えています。
認定・認定を目指す薬剤師へのメッセージ
認定は、患者さんの治療に活かせてはじめて取得した意味があると思います。今回の研修では、認定取得を目指して知識や経験を積むことで、最終的にはがん患者さんの治療の安全性と有効性の向上、さらには安心に繋げることができると実感できました。
薬局薬剤師にとっては、病院での治療を知ることによって、薬局でどういったフォローを積極的にすべきかなど、自分たちの存在意義も見えてくると思います。特に病院での勤務経験がない薬剤師は特におすすめです。興味ある方は、ぜひチャレンジしてほしいと思います。
Topics
ほっこりエピソード ―同じ母親として―
外来化学療法室での研修中、乳がん術後療法を受ける40代女性患者さんの、化学療法初回オリエンテーションと、その後2回の化学療法を担当させてもらいました。
1カ月後のお子様の卒園式に万全の体調で出席したいという目標があることをうかがい、卒園式の日からスケジュールを逆算して、副作用が出やすい日を避けるように調整したり、支持療法を工夫するなど、看護師と一緒に検討し、医師に提案するといったことができました。
私にも同じくらいの年齢の子どもがいたことなどから、相手も親近感をもってくださり、いろいろと話ができたことがよかったと思います。
2021.10