JASPOレター -がんに関わる薬剤師のひとり言- 12

がんに関わる薬剤師のひとり言:JASPOレター

40代:病院

20年前の“どろぼう”処方せんと、今の“エリート”処方せんに思う

私が病院で研修をしていた20年ほど前、中小病院にはまだ電子カルテが導入されていないところも多くありました。医師の手書きの処方せんを読み解くことは、当時の薬剤師にとって大切な技術のひとつでした。もちろん、あの頃がよかったなどと言うつもりはありません。ただ、そこには明らかなオーダー間違いと、単に医師の筆跡の癖による誤解との区別が存在し、私たち薬剤師も「間違いを見つけるぞ」という気概を持って業務に臨んでいたように思います。

現在、多くの病院に電子カルテが導入され、処方せんは「キレイ」に印刷されるようになりました。それはまるで、20年前にどこにでもいた“どろぼう姿でどこか怪しい”処方せんとは異なり、まるでスーツでびしっと決めたエリートサラリーマンのようです。

しかしその見た目の整然さゆえに、注意深く観察しても一見しただけでは誤りを見破れないこともあります。それどころか、思い込みによってエラーを見逃すことも多くなり、いまや薬剤師の処方せん鑑査も、多くがシステムチェックに支えられるようになりました。

もちろん時代の変化として自然な流れではありますが、私が新人だった頃のように「工夫を凝らしてオーダーミスを探し出す」感覚を、今の若手薬剤師が経験する機会は減っているのかもしれません。あるインシデント報告で「検索したらこの薬しかでてきませんでした」という若手の回答に、システムが補助してくれる安心感が、時に“頼りすぎ”につながってしまうのではないかと危機感を感じることもあります。

がん薬物療法は複雑で、患者さんごとに異なる背景や副作用への細やかな対応が求められます。システムによる支援は大きな力ですが、それだけに頼るのではなく、薬剤師自身の目と頭で考える力を磨き続けたい。システムに使われるのではなく、使いこなして「大物詐欺師」でも捕まえられるように、「処方せんを読み解くぞ」「エラーを見つけるぞ」という気概を、今の時代なりの形で若い世代に受け継いでいければと願っています。

 

〔2025.11.4〕

 

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