50代:病院
がん医療の現場で学んだこと
20年ほど前、勤務先の病院で外科病棟の病棟業務を立ち上げることになり、がん患者さんの服薬指導に携わるようになりました。
当時の私は臨床知識も経験も十分とは言えませんでしたが、他職種と協力し、個々の患者さんと向き合いながら少しずつ知識を積み重ねていきました。診療科が限られ、専門医が不在の環境で、多職種で相談しながら治療方針を考えた経験が、私の薬剤師としての基盤を形づくってくれたと感じています。
薬剤師として学んだことは多くありましたが、それ以上に、患者さんから教わったことの方が多かったように思います。異なる生活背景や価値観を持つ患者さんと関わるなかで、他愛のない会話に癒されたり、人生の先輩としての言葉に励まされたり、説明に伺ったこちらが元気を頂くことも少なくありませんでした。終末期の患者さんに向き合うなかで、「この患者さんが自分だったら、家族だったら何をしてほしいだろうか」 と考えるようになりました。
外科病棟の業務に慣れてきた頃、病院にほとんどかからなかった父が進行がんと診断されました。治療説明に同席した際、医師の説明に素直に頷いていた両親が、実際には内容をほとんど理解できていなかったことを知り、愕然としたことを覚えています。その後は家族として治療に関わり、治療説明の補足や、治療がうまくいかない不安を聴いたり、父の体調が悪い際には深夜でも症状緩和の薬の使用法の相談をうける日々が続きました。それまで自分が思い描いていたようにできないことも多く、父を見送った際には、十分な支援ができなかったのではないかという思いが残りました。それでも、この経験から患者さんやご家族への関わり方、言葉の届け方をより深く意識するようになりました。
現在は、業務運用や体制構築に携わる時間が増え、患者さんと直接関わる機会は少なくなりましたが、がん医療への想いは変わりません。これまでの経験を後輩へ伝えていくことも、自分の役割の一つと感じています。
〔2026.9.1〕
