60代:その他
悩める後輩たちへ
私は15年以上、病院でがん治療に携わってきましたが、定年とともに白衣を脱ぎました。実は、二度のがんを経験したサバイバーであり、妻をがんで見送った遺族でもあります。患者・家族・遺族・医療者という四つの立場を歩んできた今、がん患者会・遺族会の運営にも関わっています。
活動の中では、医療者への感謝の声を頂く一方で、不満や怒りをぶつけられることもあります。寄り添ってきたつもりの医療者としての思いと現実のギャップに、胸が締めつけられるような場面もあります。
そんな経験から気づいたのが、「医療者脳」と「患者・家族脳」の違いです。どちらも“命を大切にしたい”という気持ちは同じですが、考えどころが少し違います。医療者脳は命≧生活、患者・家族脳は命≦生活。医療者はガイドライン、生命予後やQOLを軸に考えますが、患者さんや家族は「暮らし」や「家族の時間」など生活を大切に考えます。
これまで「がんを経験したから患者さんの気持ちが分かるでしょう」と言われることがありますが、背景が違えば思いも異なります。一概に理解できるものではありません。“分かったつもり”にならないことの大切さを学びました。
では、薬剤師ができることは何でしょうか。私は“すり合わせ(ギャップの調整)”だと思います。治療で生活が変わる場面では、少しでも普段の暮らしに近づける工夫が必要です。副作用の説明だけでなく、雑談の中に改善のヒントが隠れていることもあります。「治療中だから仕方ない」と口に出さずに我慢している症状が、薬物調整で楽になることも経験してきました。
多忙な現場ですべての患者さんに同じ時間を割くのは難しいかもしれません。それでも私が現場に戻ったのは、患者さんからいただく「ありがとう」の一言が忘れられなかったからです。
その積み重ねが、きっと皆さん自身のやりがいに繋がるはずです。心から応援しています。
〔2026.1.5〕
