40代:病院薬剤師
原動力
私が、がん診療に携わるようになったきっかけは、勤務施設の医療体制が大きく変わり、がん診療を専門とする施設になったという単純な理由です。薬剤師による外来化学療法への介入は、まだ一般的ではなく診療報酬加算のない時代、指導してくれる先輩もいない環境でしたが、外来化学療法室に出向き患者さんと係るなかで、多くの経験ができました。しかしながら、亡くなっていく患者さんを観ている辛さと、考える所もあり、転職し、がん領域を離れた事があります。
そんな退職前のある日、母親と同じほどの年齢の患者さんに、今日で最後となる事を話すと、「私の事は大丈夫。私を通して学んだ経験を次の患者さんに生かすのよ。あなたならきっと大丈夫。素晴らしい薬剤師になって欲しい。」と話されました。化学療法室ではたわいもない話をしていただけで、薬剤師としては何もできていなかったと思いますが、それで良かったのだと。看護学生の娘様もいらっしゃった事もあってか、我が子の背中を温かく後押しするような、とても優しい言葉だった事を覚えています。
その後、がん診療から離れたものの、再度、がん診療に携わっている今、あの患者さんの言葉がよく思い出されます。まだまだ成長の足りない私の背中を押し続けてくれるあの経験や、日々の患者さんとの関わりこそ、がん診療に携わる自分の原動力。
患者さんの隣にそっといられる、そんな薬剤師でいたいと思っています。