なぜ私がここに文章を書くことになったか。考えていたら一つ、心に留めていた言葉が浮かんだ。あるベテラン医師がトップの医師に今後の進退を相談した時送られた言葉。「先生、来た舟には乗りなさい。」私は宴の席でたまたまそのベテラン医師の隣に座っていた。

新人の頃の私には認定を目指すことは小学生が野球選手を目指すことの様だった。身になるかは二の次に院内の臨床腫瘍セミナーに参加していた。ある時それまでは医師ばかりだった壇上に薬剤師が立っていた。医師に追従する業務をしていた私の目から鱗が落ちたのを覚えている。それから抗がん剤調製を担当している時期にがん拠点病院での研修が決まり、その流れで調製室専従のような配属になり、外来での指導も増えていった。気づけば国立のがんセンターで施設研修を受けることになり、かつての壇上の薬剤師から直接ご指導いただける幸運に恵まれた。参加した学会では認定を取得した同級生との再会が重なった。私の認定取得はそれまで関わって下さった方々との巡りあわせの賜物だと思う。

その後退職して頑張る意味も幸せの意味も分からない時期がやってきたけれど、そんな時も相談に乗ってくれたのはがん領域で活躍する薬剤師で、患者さんとの思い出がまた薬剤師としてがん治療に関わる勇気をくれた。

私には必死に漕ぐことしかできない。漕ぐことすら辞めたこともあった。それでも節目節目に次の舟がやってきて、沢山の方々の波がここまで運んで来てくれたように思う。今この陳腐な文章があなたを何かに繋ぐ小さな笹舟になるかも知れないと思いながら。