30代:大学
薬学生から学んだ視点
薬学部の講義を通じて日々感じることがあります。それは,薬学生という存在の特殊性です。彼らは薬剤師でもなく,患者さんでもない,まさに過渡期にいる人たちです。この立場にある学生に,がん治療について教えることの難しさを痛感しています。
がん薬物療法の講義では,殺細胞性抗がん薬や分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬の作用機序から有害事象マネジメントまで幅広い内容を扱います。しかし,学生にとって「がん」は教科書の中の疾患であり,抗がん薬は数ある薬の中で暗記すべき1つであることが多いです。実際の患者さんの苦痛を想像することは、伝え方を工夫しなければ困難なのだと思います。
ある日の講義で,免疫チェックポイント阻害薬について説明していた時のことです。「免疫関連有害事象は重篤化する可能性があり,早期発見・早期対応が必要であり,そこに関わるのが薬剤師です」と述べた後,学生から「そもそも,なぜそんな副作用があるのに,その薬を使うのですか」という質問を受けました。その瞬間,彼らにまだ「治療のベネフィットとリスクのバランス」という要点を伝えきれていないことを痛感しました。
これをきっかけに,単純な知識の伝達ではなく,患者さんの体験談も交え,薬剤師の役割を具体的に示すことに重点を置くようになりました。模擬患者との服薬指導演習を通じて,患者の不安に向き合う体験も提供することにしました。
わたしたちが,複雑ながん薬物療法について個々の学生(病院,薬局では実習生として)に理解してもらえるように説明することは,将来,彼らが患者に寄り添う薬剤師となった時,同じように個々の患者さんに正確でわかりやすい情報提供ができるようになるでしょう。学生たちから学ぶことで,私も成長していることを実感しています。彼らの新鮮な視点は,がん医療の未来を切り開く原動力となるはずです。その日が来るよう,私は,私にできる事を続けていこうと思います。
〔2025.7.1〕