JASPOレター:03

がんに関わる薬剤師のひとり言:JASPOレター

40代:病院薬剤師

私ががん領域を志したきっかけ

「術後の痛み止めの説明するために、薬剤師になった訳じゃないだろ?」

私ががん領域を志すきっかけになった乳腺外科医の一言だ。今から20年ほど前の話である。当時私はまだ新人で外科病棟を担当していた。今では信じられない話だが、当時当院では乳がんを除いて家族にのみ病名を告知するケースも多かった。脱毛が避けられない治療でさえも「放っておくと『がん』になるかもしれないので、抗がん剤を使います」という説明がまかり通っていたため、抗がん剤に関する説明は医師が行うのが通例だった。「病棟業務」とは名ばかりで、病棟には術後の鎮痛薬の説明をするために上がっていたようなものだった。

冒頭の言葉には続きがある。「抗がん剤も含めて薬のことは全部薬剤師に任せたい。その分じっくり手術の話もできるし、患者の話も聞けるだろう?俺たちは患者と話がしたいんだ。そして薬剤師に乳がんカンファレンスにぜひ参加してほしい」と声をかけていただいた。
今でこそ薬剤師がカンファレンスに参加することはあたり前になっているが、疑義照会ばかりで正直医師から薬剤師はウザがられているものと思っていた当時の私には衝撃の一言だった。本当に心臓がドクンと音を立てた。

頼りにされていることが嬉しく、意気揚々とカンファレンスに参加したものの、乳がんの病態や病理、治療アルゴリズムについてほぼ無知だった私が、初めて参加したカンファレンスで聞く医師の専門用語が分かるはずもなく、その後焦って必死になって勉強した。手術を見学させてもらっては医師を捕まえて質問攻めにした(おそらくこれはウザがられていたはずだ)。そのことがきっかけとなって、様々な領域のがん治療に興味を持つようになり、がん認定薬剤師としての今の私がいる。

しかし今でもあのカンファレンスで感じた場違い感・羞恥心は鮮明に覚えており、時々その感覚がフラッシュバックすることがある。トラウマに近い記憶だが、あの時の自分に「調子に乗るなよ」と言われているような気がするのだ。

 

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